設立趣意書

 わが国が西洋近代法を継受したのは明治初期のことであった。以来、内外のさまざまな要請を受けて、数々の論争を繰り広げながら、幾多の改革がなしとげられてきた。そして、今日、わが国の法制度は、社会の進展とともに法の支配を実現するに足るものに成長してきたといえる。
 しかしながら、自由と責任、権利と義務、正義・公正、立憲民主主義等といった法の基本理念は、必ずしも国民の間で共有されているとはいえない状況にある。これを真の意味で国民一人ひとりに浸透させるためには、教育こそが鍵となる。
 わが国の法に関する教育は、これまで大学法学部が独占してきた。大学法学部が、法学部教育において法的素養を身に付けた多くの者を輩出し、それらの者が今日のわが国社会の礎を築いてきたことは、高く評価すべきことはもちろんである。しかし、法学部教育に傾注するあまり、法を、国民一人ひとりに、社会全体に行き渡らせる「法教育」が疎かになっていたのではないだろうか。法を語り、法を考えることが、法学を学んだ一部の者の特権になっていなかっただろうか。
 現在進められている司法制度改革は、こうした国民と法との関係について、再考を迫るものである。先般スタートした裁判員制度は、国民が司法に参加し、法とは何か、司法とは何かという根本的な問いを突きつける。日本司法支援センター(法テラス)を中核とする総合法律支援制度は、国民に対して、法に関する情報を常時発信し続け、国民の司法へのアクセスを容易にする。法科大学院を中核とする新たな法曹養成制度は、法学教育、法曹養成教育に対して変革と変容を迫る。法曹人口の増大と隣接法律専門職種の権限拡充は、社会に法を広めていく担い手を増大させるとともに、これら法律専門家自身に対しても、絶え間ない修養と研鑽を求める。
 今こそ、法の支配を真の意味で国民に根付かせる絶好の機会である。私たちは、幼児教育、初等・中等教育、大学教養科目、および生涯教育における法教育のあり方について総合的に研究し、それを教育の現場で実践することの重要性を痛感するところであり、更には、大学法学部における法学教育、法科大学院・司法研修所における法曹教育、そして法律専門家に対する研修・教育といった法学専門教育を含む法に関する教育の一層の充実を図るため、ここに「法と教育」学会を設立するものである。
 法学界のみならず、教育学界、法曹等法律専門家、小・中・高等学校の教職員、司法・法務関係者等多くの関係者が挙って本学会に参集し、研究を深めていくことを期待するものである。
平成21年12月
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